言葉は要らない ―さらば、不撓不屈のbandiera
【コラム】
数多の新たな生命が芽吹く季節。連日メディアを賑わす玉石混交の移籍の噂に一喜一憂し、来季に思いを馳せる時期が今年もやってきた。
しかし、どれほど思いを馳せようとも、来季ピッチ上で観ることができない選手も当然、いる。初夏の季節は、選手としてのキャリアに自ら終止符を打つ者達との別れを受け入れなくてはならない季節でもあるのだ。
Clivensiにとっては、遂にこの時がやってきてしまった、といった感情だろうか。どうやら我々は、愛してやまないCapitano、Sergio Pellissierとの別れを受け入れなくてはならないようだ。
キャリア通算564試合156ゴール35アシスト。
うち、キエーヴォでは515試合139ゴール30アシストを記録。名実ともにGiallobluの中心選手として最前線をひた走り続けた。
(出典:@ACChievoVerona)
ストライカーとしての抜群の嗅覚、そして不撓不屈の強靭な精神力で数多のゴールをClivensiに届けた31番。FWは息の長いポジションとは言い難いが、彼は決して限界を感じさせることはなかった。むしろ、筆者は今の今になっても、彼の引退という事実を飲み込めていない。
激しさ、戦闘精神、利他主義、諦めの悪さが小さな巨人の重要な構成要素だ。ビジネスとアンモラルで支配される虚偽まみれのサッカー界の暗黒面において、それでもなお本当の素晴らしいサッカーの存在を信じていられるのは31番を背負う男のおかげである。Sergioは不可能は精神の限界であることを体現している。
愛の物語は浮き沈みが常だが、彼のクラブへの愛はそれを大きく上回る。Coriniは彼のポジションを取り上げ、Maranもそれを踏襲した。以来彼は自分自身の立ち位置を考えるようになり、彼は自身の境遇に不満を漏らしたことはない。彼の振る舞いこそがまさしく愛だ。
以前、【TGGialloblu】はSergio Pellissierを称える記事内で彼自身についてこう綴っていた。
彼はキエーヴォの育成組織上がりか?いいや。では、ヴェローナ出身者か?そうでは無い。
20年近くMussi volanti(空飛ぶロバ)の最強の矛として戦い続けた男は、実はかつてキエーヴォに縁もゆかりも無い男だった。それでも彼は、文字通り身を粉にしてキエーヴォのために尽くし続けた。彼の振る舞いを見ていると、筆者自身『クラブ愛』という言葉の意味を考えさせられる。
Chievo - Spal 2-1 - Highlights - Giornata 14 - Serie A TIM 2017/18 - YouTube
私はPellissierのキャリアの半分もGiallobluを観てはいないので残念ながら"ベストなゲーム"が近年のものに限られてしまうのだが、それを差し置いても、この昨季のSPAL戦を是非とも観てもらいたい。私は、この試合に彼の魅力が十二分に詰まっていると思うのだ。
前半は完全にSPALのペース。プレッシャーが軽くなってしまうバイタルエリアからミドルシュートが雨あられと浴びせられていたが、なんとか守護神Sorrentinoが凌いでいた状況だった。
しかし、Pellissierが投入されたことで流れは劇的に変わった。デコイラン、再三の裏抜け、死角からのギャップへの飛び込み…決してエゴを出しすぎることはなく、様々なDFを惑わす術でIngleseのフリースペースを作り出し、自身も2アシストで勝利に大きく貢献してみせた。
(出典:@ACChievoVerona)
よもや彼にとっての"エゴ"の主体は自身ではなくチームなのではないだろうか、と感じることが多々ある。
彼は自らの記録以前にチームの勝利、個人事業主である前にクラブのCapitano。サッカー界では歓迎されやすく、あってほしい姿ともされる事柄だが、そう簡単に行動で示せるものではない。それを淡々と、ごく当たり前のように振る舞えるPellissierは、やはり生まれ持ってのチームリーダーなのだろう。
力強い言葉でチームを導く者もあれば、一歩引いて優しく見守る者もおり、若くしてサポーターを鼓舞するような者もいる。チームリーダーとはかくも多様なスタイルでクラブをまとめ上げ、引っ張っている。
Pellissierは"背中で示す"チームリーダーであった。彼は、決して饒舌な方ではない。あまり多くを語ることはないが、強い精神力と闘志溢れるプレーで船頭に立ち、セリエAという大舞台にこの小さな小さなクラブを留まらせ続けた。
扇動するような言葉なくとも、その存在だけでClivensiは安心することができたのだ。
『我々には、Pellissierがいる。』
クラブを引っ張るのに言葉など必要ない。プレーで示せば良い。寡黙で、口下手で、恵まれたとは言えぬ体躯の小兵は、このヴェローナで最も偉大な存在であった。
(出典:@ACChievoVerona)
そんなPellissierが、珍しくクラブの状況について多くを語っていたことがあった。今季途中、あのVentura辞任の際のことである。
Pellissier「この写真(※後画像参照)には、今私が持っているすべての怒りが込められている。
不正会計に揺れた夏、慌ただしいシーズンの始まりと、彼自身が到着したその時から既に逃げ出したいと思っていた監督の辞任。終わりがないということは最悪だ。なんとクレイジーか!プロとしての22年間で私はすべてを見てきたと思っていたが、常に新たな発見があることを認めなければならない。
しかし、キエーヴォでは我々は常に困難に直面することに慣れており、今我々のバックについている人々と一丸となって行く。あなたは戦いなくして人生で何かを得ることができない。味が無いだろう?我々は一からリスタートし、今度はもっと強くなるだろう。
このチームを愛している人ならば、物事が上手くいかないからといってそれを放棄することはできないはずだ。あなたはVenturaのようにはならない。あなたはチームが勝つために不可欠だ。最後まで絶対に諦めてはならない。」
今季は夏の粉飾決算騒動に始まり、ただでさえClivensiは不安なシーズンを送っていた。藁をも掴む思いで招聘した元代表監督も、好転しない状況に尻尾をまいて"逃げ出す"始末。
多くのティフォージが諦めの言葉を口にする中、突如長文の投稿がPellissierからなされた。
文中の力強い言葉の数々にどれほど安心できたことか!言葉選びだけにあらず、Venturaの辞任から時間を置かずにすぐ声明を出した点も含め、Clivensiを団結させるに十分すぎるほどの振る舞いだった。
結果としては降格となってしまったが、我々は諦めることなく戦い抜くことができた。Capitanoの素晴らしい行動に心から感謝したい。
(出典:@ACChievoVerona)
「選手と監督は来ては去る。だけど俺たちは永遠、永遠だ。」
これはサポーター論を語る上で外せない名著の中で、お隣エラス・ヴェローナのティフォージが語っていた言葉だ。確かに、どれほどの選手や監督が移り変わろうとも、クルヴァでサポートする者達は変わることはない。彼らは常にクラブに寄り添い続ける至高の存在である。
あるいは、もしかしたら、Pellissierも移り変わる中の1人なのかもしれない、と。果たしてそうだろうか?
特に今季、PellissierやSorrentino、Di Carlo監督が強調していた言葉に「キエーヴォスピリット」というものがある。この言葉を解釈する上でPellissierのプレースタイルというのは絶対に外せないと感じるのだ。
"激しさ、戦闘精神、利他主義、諦めの悪さ"。【TGGialloblu】のPellissierを表した言葉を借りさせていただくと、まさにこれこそが「キエーヴォスピリット」ではなかろうか。相手以上に走り、決して諦めず、泥臭くとも勝ち点をもぎ取る。それこそがこの小さなクラブがAという大舞台で戦い続けることができた要因であり、周囲に嫌がられるアイデンティティでもあった。体現していたのは誰か?紛うことなきCapitano、Pellissierである。
PellissierはBentegodiを去る(※SDや会長という形でフロントには残るだろうが)。しかし、彼の残した「キエーヴォスピリット」はクラブに息づき、そしてクルヴァで共に戦い続けるであろう。31番の残した偉大な精神もまた、永遠、永遠だ。
(出典:@ACChievoVerona)
誇るべきbandieraを称える言葉を口にすればするほど、意図せぬ方向に安っぽく感じてしまう気がしてならないので、彼のスタンスに倣ってこの辺りでやめておくことにする。
彼がそうしたように、我々もまた、彼を称える手段としての言葉を要しない。San SiroのInteristaやBentegodiのClivensiがそうしたように、ただ最大限の敬意と拍手を以て彼を送り出そう。キエーヴォを、この小さな小さなクラブを、愛してくれてありがとう。さらば、私たちの誇りよ。
(出典:@ACChievoVerona)
Pellissier「一度に語り尽くすのは非常に困難だ。この19年間で出会った多くの人々に感謝したいと思う。まずCampedelli会長、それから私にこの場所を与えてくれたSartori。私が関わった友人達の数は非常に多いが、彼ら全員が私に何かを教えてくれた。彼らは私の改善を助けるだけでなく、私にAで多くのゴールを生み出させてくれた。(中略)私の真の友達、家族、そしてサポーター。特にClivensiの愛情は驚くべきものだった。Bへの降格、これは私にとって最悪の日だったが、にも関わらず彼らのおかげで最も美しいものに変えることができた。ありがとう。」
(出典:@ACChievoVerona)